近年チョコレートの原料であるカカオの価格が高騰していることをご存じでしょうか?
カカオの国際価格は、ニューヨークとロンドンで行われる先物取引が指標となっています。
この指標が、2023 年 3 月末には 1 t あたり約 3000 ドルであったのに対し、2024 年 3 月には 10,000 ドルを超えました。
この価格高騰の原因として、気候変動が挙げられますが、その他にもカカオの病気が考えられます。実際に、「病気と害虫のせいでカカオ生産の 30~40 % が失われた」という国際カカオ機関による報告もあり、2050 年までにカカオやチョコレートが絶滅するともいわれています。
カカオの病気には、何種類かの菌類が大きく関わっています。カカオの木は病気に非常に弱く、一度蔓延すると、農園が大きな打撃を受けるだけでなく、その地域のカカオ産業自体を脅かしてしまう可能性もあります。
かつて世界第 2 位のカカオ生産量を誇っていたブラジルは、病気が原因で一気に生産量が落ち込み、現在では世界第 7 位まで後退しています。ブラジルのバイア州は、 1980 年代半ばには 40 万 t 以上を生産する主要カカオ産地でしたが、ウィッチズブルームという病気による被害により2021 年には半分以下となりました。
その結果、生産されるカカオ豆はほぼ国内消費のみにまわされています。
病気の他、上で述べた害虫や動物による被害もあり、これらは病原菌の伝播を助長してしまいます。
また、カカオの病害は気候変動の影響も受けています。
ラニーニャ現象により多雨がもたらされると、湿度が極端に高くなるためモリニア病が蔓延し、ポッドが腐敗してしまいます。反対に干ばつが起こると、カカオの木は水を多く必要とするため枯死してしまうのです。
主なカカオの病気と害虫
ウィッチズブルーム | 菌:クリニぺリス・ペルニシオーサ(病原菌) 枝や果実が奇形となり、果実の組織を破壊してカカオ豆を殺してしまう。中南米に広まり、収穫量を低下させた。 |
ブラックポット | 菌:フィトフトラ(水生菌) 主にポッドに繁殖するカビでポッドを黒く腐らせる。フィトフトラは広く存在しているため、カカオの病害では最も一般的で、湿度の高い状況で蔓延しやすい。 |
モリニア病 | 菌:クリニぺリス・ロレリ(病原菌) カカオポットを腐らせてしまう。中南米に広範囲で広がり、被害を生んでいる。 |
カプシッド | 樹液を吸う昆虫。植物組織に損傷を与えることに加え、これが枝やポッドを腐らせる菌類を自由に入らせる。 |
カカオポッドポーラー | 幼虫がポッドに侵入し、豆の発育を妨げる。 |
病気の蔓延を防ぐためには、日常的な農園の手入れが欠かせません。
対応の原則は、感染したポッドを除去・焼却し、農園の通風を改善することです。
ウイルス感染の場合は、感染した枝の根本から剪定して除去します。
しかし、カカオ農園は広大であるため1 本 1 本 の木をチェックして対応をすることは非常に困難で、病気を見極めることにも経験が必要です。根本的な解決のためにも、耐病性のある品種の開発が急がれています。
耐病性のある品種が開発されれば、生産性が上がり生産国の利益が増えるとともに新興国の需要増にも対応でき、価格も下がることが期待できます。