チョコレートのおいしさを決める要因とは

 できあがったチョコレートのおいしさは、口の中で滑らかに融ける物理的性質、いはゆる「口どけ」と、それに伴って現れる味と香りの化学的性質で決まります。口どけには、ココアバターの結晶に閉じ込められた味と香りの成分を口中に解き放つ速さと、結晶が融けるときに奪われる熱による清涼感が大きく影響します。

チョコレートの味覚には苦味、甘味、酸味などがあり、苦味と甘味がうまくミックスしている点がチョコレートの特徴といえます。また、香りは、豆に含まれる成分が発酵と焙炒(ロースト)により複雑化して 1000 種類以上の香り成分のハーモニーができあがります。これらの味と香りが調和することで、チョコレートのおいしさを形作っているのです。

チョコレート、特に最も人気の高いミルクチョコレートにおけるおいしさを決める要因としては大きく次の 4 つが挙げられます。

  • カカオ豆

 カカオの木の種類、産地の気候と土壌、豆の発酵、豆の乾燥 など

  • 砂糖と粉乳

 種類と産地、粒形、配合

  • 製造工程

 配合、ロースト、微粒化、結晶化(テンパリングと冷却) など

  • 摂取条件

 形と大きさ、食べるときの温度、保存状態

「豆の発酵」について

カカオ豆に関する要因の中で、チョコレートにとって極めて重要であるとされている「豆の発酵」について詳しく解説します。

カカオ豆の発酵は大きく発酵初期、発酵中期、発酵後期の 3 つの段階に分けられます。

発酵初期ではアルコール発酵が起こります。アルコール発酵とは、酵母が糖を分解してエタノールと二酸化炭素を生成する反応のことです。カカオの果肉の糖が酵母菌により分解されることで、アルコールができるのです。この過程では同時に熱が発生するため、徐々に温度があがっていきます。日数がたつと果肉の粘り気の成分であるペクチンが分解され、液状となって徐々に流れ落ちていきます。

発酵中期では酢酸発酵が起こります。酢酸発酵とは、酢酸菌エによりタノールが酸化され、酢酸と水を生成する反応のことです。発酵初期に生成されたアルコールを栄養源として酢酸菌が働き、酢酸が生成されます。この反応でも熱が発生するため、このときカカオ豆の温度は 50 ℃ 以上にも上昇すると言われています。酢酸菌の活動が始まる時期や酢酸の量の違いが、最終的な風味に影響を与えます。酢酸菌は好気性細菌であるため、粘り気のある果肉内では活動することができません。そのため、攪拌をすることで酸素を供給しています。この攪拌をどの程度行うか、何日目に行うかによって、チョコレートの風味が変化しているのです。

発酵後期では、香りの元物質が生成されます。発酵初期・中期は果肉で進みます。その段階で発生した酸や熱はカカオ豆の細胞組織や細胞膜の機能を破壊するため、果肉とカカオ豆の間や豆内部を成分が自由に行き来できるようになります。それにより、成分同士が新たに複雑な化学反応を起こし、香りのもとになる成分を作り上げていくのです。カカオ豆に多く含まれているタンパク質や多糖類は分解され、ペプチド、アミノ酸、単糖類へと変化していきます。これらが後の焙煎により香り物質へと昇華していきますが、種類により最終的に表れる香りの質は異なり、チョコレートの風味に影響を与えます。他にも、渋み成分であるポリフェノールが酸化されてマイルドな風味へと変化します。この発酵後期で果肉は完全に流れ落ち、カカオ豆だけが残ります。

未発酵の、もしくは発酵不十分なカカオ豆を使用してチョコレートをつくると、どのようなチョコレートができあがるでしょうか?上記のことから、焙煎してもチョコレートらしい香ばしさが乏しい、苦味や渋みのとがったものになることが安易に予想できます。このように、カカオ豆の発酵作業はチョコレートの風味に大きな影響を与えます。そのため、豆の発酵はチョコレートのおいしさを決める重要な要因と言えるのではないでしょうか。

カカオの発酵過程

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